無免許業者に許される行為は、保健衛生上危害を生じるおそれが無いことを保てる施術に限定される。

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さて、前回の記事では無免許業者が現行判例上、行って良いのは「誰に行っても無害な施術」と書きました。


その根拠となる判例をこれから何度かに分けて解説していきます。

まず最初は歯科技工士が義歯制作のために印象採得などを行ったとし、歯科医師法違反に問われた事件です。

まず参照条文を。

歯科技工士法
第20条 歯科技工士は、その業務を行うに当つては、印象採得、咬合採得、試適、装着その他歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない。

歯科医師法
第17条  歯科医師でなければ、歯科医業をなしてはならない。

日本国憲法
第13条  すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

第22条  何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

この事件の裁判は
第一審 大阪地方裁判所昭和32年9月26日判決
控訴審 大阪高等裁判所昭和33年2月10日判決
上告審 最高裁判所大法廷昭和34年7月8日判決 昭和33(あ)411

となり、無料で裁判所のサイトで見れるのは上告審のみになります。

三審制というと3回裁判するイメージが有ると思いますが、最高裁では事実関係を調べません。
詳しくは弁護士の小川義龍先生の記事を参照していただきたいのですが、事実関係を調べるのは控訴審までであり、そのため最高裁の判決文を読んでもさっぱり事実関係がわからないことがあります。

事実関係を把握するためには下級審の判決も読む必要がありますが、あまり裁判所のサイトには載っていないため、商用の判例データベースを用いないと読めないことがほとんどです。

もっともこの事件に関しては最高裁判決だけで十分です。

この事件を私が何故重要視するかといえば、昭和35年のHS式無熱高周波療法の裁判を審理した12人の裁判官のうち、11人がこの事件を審理しており、医業類似行為の禁止処罰は人の健康に害を及ぼすおそれのある行為に限局する判断をした8人もこの歯科医師法違反事件では多数意見(というより反対意見がなかった)をとっているからです。

また昭和35年の判決後に厚生省から出された通達、「いわゆる無届医業類似行為業に関する最高裁判所の判決について」はこの歯科医師法違反の裁判も考慮に入れ、「当該医業類似行為の施術が医学的観点から少しでも人体に危害を及ぼすおそれがあれば、人の健康に害を及ぼす恐れがあるものとして禁止処罰の対象となるものと解されること。」と通知していると考えられるのです。

では最高裁の判決文を少し編集して載せます。
本来、判決文は縦書きなので「右」というのは横書きでは「上」と読み替えてください。
主文

本件上告を棄却する。
理由

 弁護人松浦武、同塩見三俊の上告趣意第一点について。

 思うに、印象採得、咬合採得、試適、嵌入が歯科医業に属することは、歯科医師法一七条、歯科技工法二〇条の規定に照し明らかであるが、右施術は総義歯の作り換えに伴う場合であつても、同じく歯科医業の範囲に属するものと解するを相当とする。

けだし、施術者は右の場合であつても、患者の口腔を診察した上、施術の適否を判断し、患部に即応する適正な処置を施すことを必要とするものであり、その施術の如何によつては、右法条にいわゆる患者の保健衛生上危害を生ずるのおそれがないわけではないからである。

されば、歯科医師でない歯科技工士は歯科医師法一七条、歯科技工法二〇条により右のような行為をしてはならないものであり、そしてこの制限は、事柄が右のような保健衛生上危害を生ずるのおそれなきを保し難いという理由に基いているのであるから、国民の保健衛生を保護するという公共の福祉のための当然の制限であり、これを以て職業の自由を保障する憲法二二条に違反するものと解するを得ないのは勿論、同法一三条の規定を誤つて解釈したものとも云い難い。

所論は、右に反する独自の見解に立脚するものであつて、採るを得ない。

 同第二点について。

 所論は単なる法令違反の主張を出でないものであつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

 よつて、同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和三四年七月八日

要約すれば

歯科技工士(および一般人)が印象採得などを禁じられるのはその行為が"保健衛生上危害を生ずるのおそれ無きを保し難い"ためであり、歯科技工士法第20条、歯科医師法第17条は憲法22条(職業選択の自由)や13条(幸福追求権)に違反しない。

ということです。

つまり無免許(歯科)医療が許される絶対条件としては"「保健衛生上危害を生ずるのおそれ無き」を保てること"です。

なので少しでも保健衛生上危害を生じるおそれのある行為を無免許で行えば禁止処罰対象になるわけです。

さて、この歯科医師法違反の裁判の翌年、当業界にとって大事であるHS式無熱高周波療法の最高裁判決が出されるわけです。
既に書いたように、裁判官のうち8人は歯科医師法第17条は合憲と認めながら、医業類似行為の禁止処罰に関しては人の健康に害を及ぼすおそれのある行為に限局すべき、と判断したわけです。

まあ、歯科医師法違反事件は歯科技工士が歯科医の指示書などを貰わずに独自に義歯制作などをしようとして印象採得などをする、って事件ばっかりなんですね。

なので行われている行為も歯科技工士法第20条に規定されているものがほとんどなわけです。
それらの行為が「保健衛生上危害を生ずるのおそれ無きを保ち難い」と認定するのは難しくありません。

ところが医業類似行為はどういう行為を行うのか、事前にはわかりません。
仙台高裁の判決の定義では

疾病の治療又は保健の目的を以て
光,熱,器械 ,器具その他の物を使用し若しくは応用し又は四肢若しくは精神作用を利用して施術する行為であって
他の法令において認められた資格を有する者がその範囲内でなす診療又は施術でないもの

となります。

かなり広い定義になります。

ホメオパシーは錠剤投与なのでもしかしたら医業類似行為の定義から外れるかもしれませんが、全く無害な施術行為の可能性を考えて医業類似行為の禁止処罰を「人の健康に害を及ぼすおそれのある行為」に限局した可能性があります。

全く無害な行為だけを処罰しない、と考えればHS式無熱高周波療法の最高裁判決後に厚生省が
"当該医業類似行為の施術が医学的観点から少しでも人体に危害を及ぼすおそれがあれば、人の健康に害を及ぼす恐れがあるものとして禁止処罰の対象となるものと解されること。"
と通知したのもうなずける話です。
○いわゆる無届医業類似行為業に関する最高裁判所の判決について
(昭和三五年三月三〇日)
(医発第二四七号の一各都道府県知事あて厚生省医務局長通知)

本年一月二十七日に別紙のとおり、いわゆる無届医業類似行為業に関する最高裁判所の判決があり、これに関し都道府県において医業類似行為業の取扱いに疑義が生じているやに聞き及んでいるが、この判決に対する当局の見解は、左記のとおりであるから通知する。



1 この判決は、医業類似行為業、すなわち、手技、温熱、電気、光線、刺戟等の療術行為業について判示したものであって、あん摩、はり、きゅう及び柔道整復の業に関しては判断していないものであるから、あん摩、はり、きゅう及び柔道整復を無免許で業として行なえば、その事実をもってあん摩師等法第一条及び第十四条第一号の規定により処罰の対象となるものであると解されること。
従って、無免許あん摩師等の取締りの方針は、従来どおりであること。
なお、無届の医業類似行為業者の行なう施術には、医師法違反にわたるおそれのあるものもあるので注意すること。

2 判決は、前項の医業類似行為業について、禁止処罰の対象となるのは、人の健康に害を及ぼす恐れのある業務に限局されると判示し、実際に禁止処罰を行なうには、単に業として人に施術を行なったという事実を認定するだけでなく、その施術が人の健康に害を及ぼす恐れがあることの認定が必要であるとしていること。
なお、当該医業類似行為の施術が医学的観点から少しでも人体に危害を及ぼすおそれがあれば、人の健康に害を及ぼす恐れがあるものとして禁止処罰の対象となるものと解されること。

3 判決は、第一項の医業類似行為業に関し、あん摩師等法第十九条第一項に規定する届出医業類似行為業者については、判示していないものであるから、これらの業者の当該業務に関する取扱いは、従来どおりであること。
別紙 略

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