整体、カイロプラクティック、無免許マッサージなどの違法施術の返金を求めるには?


無免許であることを知らされずに、整体師やカイロプラクティック、リラクゼーションなどと称する無免許マッサージなどの違法施術を受けた場合、施術料金の返還を受けることは可能でしょうか?

 

また判例を引用しながら解説していきます。

消費者庁の資料になります。
http://www.caa.go.jp/planning/pdf/140516_shiryou03.pdf

 

この65頁目の判例となります。


名古屋地裁 昭 54(ワ)2242 号 出典 判時1081号104頁

 

原告の娘、春子さん(昭和48年生まれ)は生後間もなく治療困難な難聴と診断されます。
そして難聴に良いと知人から聞いて、被告の加持祈祷治療を昭和51年11月から一回8,000円で受け、昭和54年3月まで合計737回、合計589万6,000円を治療費として支払ったものの、難聴は改善しませんでした。

そして治療費の返還を求めた訴訟がこの事件となります。

 

原告は治療費返還の請求理由として

 

  1. 債務不履行に基づく損害賠償請求
  2. 治療費返還契約に基づく請求
  3. 公序良俗違反の契約無効による返還請求

といったのを挙げています。

 

1は治癒を約束したにも関わらず、治癒させていないから債務不履行である、よって支払い済みの治療費を返せ、ということです。

 

2は原告によると、被告は難聴を治せない場合には治療費を返還することを何度も約束したそうです。

 

3は被告の行為は何としても子の病気を治したい親の弱みにつけこんで、法外な料金を博する暴利行為であり、本件治療契約の正当な対価を超えた部分は公序良俗に反し無効であるとし、そして本件治療契約における正当な対価は一回につき金一、〇〇〇円を超えないとして、超過分の返金を求める、というものです。

 

1については、治療行為は治癒を保障するものではないから却下されます。

 

原告主張のごとき治癒という結果を目的とした特約付治療契約ないし請負契約と認めることはできず、治療の処理を目的とした一種の委任契約と認めるのが相当である。
 そうすると被告は春子の難聴を治癒させることができなかったが、このために原告に対し債務不履行の責任を負担するいわれはない。

 

というのが裁判所の判断となります。

 

2については証拠不足で返還契約をしたとは認められないとして却下。

 

で、3についてですが、この内容については前掲の消費者庁の資料にも書いてあります。

 

被告は1年内に治す、と言っていたので1年経過時に原告に対して治療継続の再考を促すべきであった、と裁判所は判断しています。

そして一回あたりの治療費ですが、娘さんだけでなく、原告の家族3人の祈とうも必要ということで4人分の祈祷料として8,000円となっておりました。

被告が所属する善導会では一回あたりの祈祷料は2,000円でした。

 

なので一回あたり2,000円で、1年間分(354回)の治療費(70万8,000円)は正当な取得と認め、それ以上の治療費は公序良俗に反するとして、518万8,000円の返金を命じたのでした。

 

暴利行為の禁止、ということで消費者問題の判例としても重要です(だから消費者庁の資料でも紹介されている)。

 

さて、判決の中で

 

前記一、3で認定した被告の療術行為が医師法一七条で禁止されている医業の内容である医療行為に当たるとは認められず、またあん摩師・はり師・きゆう師及び柔道整復師法一二条で禁止されている医業類似行為に当たるものとも認められない。
そして前認定のごとき被告の加持祈とうはそれ自体が公序良俗に反するということができないのはもちろんである。

 

とあるので、当業界の方々はどのような治療行為だったのか、気になるかと思います。

 3 被告のした施術ないし加持祈とうの大要は以下のとおりであった。

 

(一)バイブレーターによるマッサージ。患者の着衣の上にタオルを置き、その上から約一五分間、市販のバイブレーターを用いて身体をマッサージする。

 

(二)高野山温灸。患者の身体の上にタオルと八つ折りにした市販の紙を重ねて置き、その上から高野山燈心会本部特製の円筒形のもぐさの固まり(直径約一・五センチ、長さ約一五センチ)に点火した部分で軽く圧して皮ふを温める。全身数十箇所のつぼに約一〇分間施す。

 

(三)高野山オリーブ油を脱脂綿にしみこませて耳に入れる。

 

(四)吸引。直径約一・八センチ、長さ約四・五センチのガラス製の円筒形の器具を用いて、患者の首の皮ふを押圧して引っ張る。一〇回位施す。

 

(五)抜き取り封じ。市販のプラスチック製の色付きコップにざらめ砂糖を入れ、その上に人形を印刷してある形を細かく折って入れ、コップに蓋をする。その蓋の上に善導会本部会長小松観晃から買受けた紙(悪霊を押さえる意味の梵字が印刷されている。)を約一〇分間呪文を唱えながら糊ではりつける。

 

(六)延命封じ。鬼を追い払う意味の文字や六体地蔵の図案が書いてある紙を患者の身体に当て、これを二重に封筒に入れて川に流す。

 

「療術行為」と言っているので医業類似行為じゃないか、という気もしますし、(一)なんかは無免許マッサージの可能性も。(二)は灸、(四)は医業類似行為じゃないかと思います。(三)が医業類似行為か、宗教行為かは微妙ですが。

 

さて、このような行為も医業類似行為とは認められないんだ、と思ったらダメです。

 

判決文全文を読めばわかるのですが、
原告、被告ともに被告の治療行為を医業類似行為だとは主張していないんです。

 

日本の民事訴訟は弁論主義といいまして、原告、被告、どちらも主張していない事実を判決の基礎としてはいけないのです。

 

弁論主義について、弁護士事務所が解説している記事がありますので詳しくはそちらをご覧ください。

 

なので裁判官が勝手に被告の治療行為を医業類似行為と認定しては弁論主義に反することになってしまうのです。

 

仮に被告の治療行為を医業類似行為と認定し、違法施術契約だから公序良俗に反し、無効な契約として全額返金を命じたとしましょう。

 

この場合、被告は控訴して、弁論主義に反する、と主張するでしょう。
こうなると高裁ではその主張を認めて地裁に差し戻しをする可能性もあります。

また医業類似行為の禁止処罰は最高裁判決により「人の健康に害を及ぼすおそれのある行為」に限定されています。
そのため、控訴審でひっくり返される危険もあるわけです。

 

そのため暴利行為と認定し、一定額の返金を命じたのは弁論主義と良心の狭間での判決だと言えます。

 

そして「医業類似行為」という言葉を判決で出したのは、原告がさらなる返金を求める場合でも、あるいは被告が控訴した場合でも、被告の治療行為を医業類似行為として主張できるように、という配慮だと思うのです。

 

この裁判、事件番号から昭和54年に起こされ、判決は昭和58年3月31日です。

この間、薬事法に関し、無認可医薬品については食品と同成分で有効無害なものであっても、その製造販売を禁止処罰するのは憲法22条に反しない、という判決と、無認可の医療機器の製造の禁止処罰にあたっては「人の健康に害を及ぼすおそれ」を判断する必要は無い、という判決が最高裁で出されます。

 

つかれず事件:昭和57年9月28日判決

吸引器事件:昭和54年3月22日判決

 

この薬事法判例の流れからすれば医業類似行為に関する最高裁判例の変更も可能だったと思われます。
裁判官はその可能性も認識していたのではないでしょうか?

 

さて、この裁判、判例データベースでは「控訴」と書かれていますが、控訴審の判決は判例データベースには収録されていないようです。控訴をしたのが原告、被告、どちらなのか、その双方なのかもわかりません。

 

判決を得ないで控訴審を終了するとすれば控訴取り下げ、認諾、和解といったものが挙げられます。

控訴できるのは一審判決後の約2週間だけです。
なので迷ったら控訴、という感じです。

 

弁護士向けに仕事術を解説しているページなのですが
 

もし、依頼者が迷っているようであれば、とりあえず控訴をすすめましょう。 
控訴をした後に考え直して取り下げるということ可能ですので。 
一方、もし控訴をしなかった場合には、2週間を過ぎると控訴が絶対にできなくなってしまいます。 
一週間以内に控訴するかしないか決断。 
迷ったら控訴。

 

で、50日以内に控訴理由書を提出します。
なのでとりあえず控訴してから判例などを調べて控訴理由書を書くこともあるわけです。

 

昭和58年ですから今のようにコンピューターなんて普及しておらず、オンラインの判例データベースなんてありません。

被告としては500万円も返せと言われたらとりあえず控訴するでしょう。

 

原告としてはどうなんですかね?
弁護士はついていましたから、主張していない「医業類似行為」という言葉には反応するでしょうね。

原告が控訴しなくても、被告が控訴した以上、答弁書を作成する必要があるわけで、そのときに「医業類似行為」という言葉から必要な判例を調べ、

「被告の療術行為は医業類似行為であり、違法施術契約であるから公序良俗に反し、契約は無効。よって被告は治療費を全額返金する義務がある。」

と主張できるはずです。

 

そしてこのように暴利をむさぼられた被害者に対し、「人の健康に害を及ぼすおそれ」が証明されなければ治療費を返金する必要性は無い、と言える人はよほどの自己責任主義者でしょう。

 

このように倫理観を持たずに暴利をむさぼる業者の存在も、無免許業者による医業類似行為を禁止する理由としては十分です。

つまり昭和35年判決の判例変更の可能性があったわけです。

 

控訴審の最初の口頭弁論で原告の上述のような主張がされた場合、被告(とその弁護士)はどう考えるか。

 

まず自分の治療行為が判決で違法とされる可能性を考えなければいけません。
もし違法認定されれば、他の患者さんたちにも返金する必要が出てきます。
なので違法認定の判決は回避しなければいけません。

そうなると控訴取り下げ、認諾、和解といった選択肢が出てきます。

 

原告も控訴していれば被告が控訴を取り下げて終了、というわけにもいきません。

というわけで認諾や和解で控訴審判決を回避したのではないか、と思うわけです。

 

私が判例データベースを検索しても、医業類似行為を違法施術契約として施術料金の返還を求めた裁判の判決はありません。

この裁判の1の請求理由のように、治癒されなかったことを理由に、消費者契約法の不実告知に該当するとして、施術料の返還を求めた訴訟はありますが、敗訴しております。
本文は収録されていないので詳細は不明なのですが。

おそらく弁護士で医業類似行為というのを知っている人が少ないのでしょう。

 

また知っている場合、薬事法の最高裁判例も把握していると思われるので判例変更の可能性が高いことを示しながら示談しやすいわけです。裁判になったとしても和解に持ち込みやすく、判決は出されません。
被害者としては被害が回復されることが目的であり、必ずしも判決を得る必要はありませんから。

 

というわけで無免許業者の皆様、違法施術として全額返金を求められた場合、拒否できる法的な理論武装はできておりますかな?


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