富士見産婦人科病院事件(超音波画像と医師法違反)

JUGEMテーマ:整体

 

前回に紹介した富士見産婦人科病院事件の別の裁判です。

 

 

前回取り上げた裁判では院長が無資格者に診療の補助をさせていたとして、保健師助産師看護師法違反に問われましたが、その時に指示した無資格者に院長の夫である理事長がいます。

 

 

この理事長が超音波検査・診断を行っていたとして医師法違反に問われ、有罪が確定しております。

今回紹介するのは浦和地裁の判決ですが前回の記事に載せた画像を見ればわかるように、控訴棄却、上告棄却となっております。

被害者が65人にのぼり、個別の供述内容を審理しているために判決文もかなり長くなっており、被害者の個別審理の内容については掲載を省略させていただきました。

 

 

超音波画像装置の利用に関してはこんな通知(PDF)が出されており、国家資格者はその業務の範囲内に限り、超音波画像装置を使うことができます。

 

 

当然、無免許では使うことはできず、「超音波 整体」で検索してみても出てくるのは国家資格者の施術所だけですね。

 

では判決文です。

強調や改行は筆者によります。


 

浦和地裁川越支部昭和63年 1月28日判決 判例時報 1282号7頁

 

《本籍・住居》《省略》
 無職(元医療法人役員) 北野早苗
 

 右の者に対する医師法違反被告事件について、当裁判所は、検察官松宮崇、同坂井靖出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。


 

 

主文

 

 被告人を懲役一年六月に処する。
 この裁判の確定した日から四年間右刑の執行を猶予する。
 訴訟費用は被告人の負担とする。

 

 

理由

 (罪となるべき事実)

 被告人は、昭和四二年八月医療法人芙蓉会富士見産婦人科病院(以下、「富士見産婦人科病院」という)を開設し、同法人の理事長に就任していたものであるが、医師の免許がないのに、別表記載のとおり、昭和五三年一月四日から同五四年一一月二日までの間、六六回にわたり、埼玉県所沢市西所沢二丁目一番一三号所在の富士見産婦人科病院本院において、六六名の患者に対し、担当医師の指示により実施した超音波検査(以下、「ME検査」ともいう)の結果から、同患者らについて、それぞれ子宮筋腫、卵巣のう腫等の疾病があり、入院、手術を要する旨判定・診断したうえ、これを同患者らに告知し、もって、医業をなしたものである。

 

 (証拠の標目)《省略》

 

 (争点についての判断)

 

 本件事案にかんがみ、主な争点に対する当裁判所の判断と事実認定に関する若干の補足的説明を加えることとする。

 

第一 訴因不特定の主張について

 

 弁護士は、

(一)検察官は、本件犯行の既遂時期に関し、昭和五六年四月一七日の第一回準備手続期日における裁判長の求釈明に対し、「被告人がME検査をして判定、診断をし、もしくはポラロイド写真台紙に自己の所見を記載した時点で既遂となり、患者に対し被告人が自己の所見を告知してもしなくても既遂であることに変りはない。」と述べ、他方同年五月二九日の第二回準備手続期日においては、「被告人が患者に対しME検査を開始した時点が犯行の着手時期であり、その結果に基づき被告人が独自の判断で患者の疾病等について判定、判断しこれを患者らに告知したことにより既遂となる。」と述べているが、右検察官の本件犯行の既遂時期に関する主張は相互に食違っていて明らかでないので、本件訴因は特定していないというべきである。

 

(二)検察官は、本件公訴事実中の判定、診断、告知につき、昭和五五年一一月二一日の第一回公判期日において、弁護人からの、「起訴状中の判定とは独立した医行為であるか。」との求釈明に対し、「判定とは広い意味で医業であるが、独立した医行為とまでは考えていない。ME検査の結果、ブラウン管に投影された映像に対する解読、判断であり、医学的な評価の前提としての客観的状況に対する判断であり、また判定と診断とは一体をなしたものである。」と釈明し、次いで前記第一回準備手続期日において、弁護人からの、「ME検査の判定、診断をもって医療行為があったというのか。」との求釈明に対し、「判定・診断は広義の医行為である。」と釈明し、第二回準備手続期日においても同様の釈明をしているが、他方、右第一回準備手続期日において、「(ME検査の結果を)告知した場合であっても、判定・診断、告知が一体として医行為となる。」とも述べており、本件においては、広義の医行為、判定・診断、告知のそれぞれの持つ意味と関連して、医行為の範囲についての本件訴因は極めて曖昧かつ不透明であり、特定していない、と主張する。

 

 そこで先ず所論(一)についてみると、検察官は本件犯行の既遂時期等に関し、所論指摘のとおりそれぞれ釈明しているが、右は本件犯行の既遂時期等についての検察官の意見を表明したにすぎないものであって、そのこと自体本件訴因の特定に何ら影響を及ぼすものではない。本件公訴事実は、犯行の日時、場所、犯行の内容等について具体的に明示して記載されており、その特定に欠けるところはない。所論は理由がない。

 

 次に所論(二)についてみると、起訴状記載の公訴事実及び検察官の釈明によれば、本件公訴事実の内容をなす医行為は、ME検査結果から、患者に特定の疾病があり、入院、手術を要する旨判定・診断し、これを患者に告知したというものであり、右判定、診断、告知は一体として医行為を構成するものとして起訴されたことが明らかである。また、判定、診断、告知はそれ自体抽象的な概念であるといっても、通常の判断力を有する一般人がその意味内容を確定するのにそれほど困難を感ずることがないのみならず、本件においては、検察官の釈明により、判定はME検査の結果ブラウン管に投影された断層映像に対する解読、判断であって、医学的評価の前提としての客観的状況についての認識、判断であり、また診断は右認識判断に対する医学的評価であり、告知についても公訴事実別表記載の各患者に対する告知内容によりそれぞれ具体的に明らかにされているものであって、本件医行為の訴因の記載として特定性に欠けるところはないということができる。所論はとうてい採用できない。

 

第二 富士見産婦人科病院について

 

  一 富士見産婦人科病院の開設と構成

 

 被告人の当公判廷における供述、被告人の検察官(昭和五五年九月二〇日付)及び司法警察員(同月一六日付)に対する各供述調書、証人北野千賀子の公判調書中の各供述部分、検察官沖田章作成の昭和五五年一一月一七日付捜査報告書、川村耕治作成の登記簿謄本等によれば、富士見産婦人科病院は、医療法人芙蓉会の開設にかかる病院であるが、被告人の妻である北野千賀子医師(以下、「北野医師」あるいは「北野院長」という)が勤務していた埼玉県所沢市西所沢二丁目一番一三号所在の医療法人芙蓉会第一診療所が昭和三八年ころ閉鎖されたため、被告人が同第一診療所の建物と土地を買い取り、これに隣接土地を買し増したうえ、同四二年八月同所に新たに開設された病院が右富士見産婦人科病院(本院)であり、また同四三年九月には北野医師が以前より同市緑町一丁目一八番二号において個人で開設していた芙蓉会産院が右富士見産婦人科病院の分院となったが、このとき被告人が医療法人芙蓉会の理事長に、A医師が富士見産婦人科病院の院長に、北野医師が同分院長にそれぞれ就任している。

 

 また、医療法人芙蓉会富士見産婦人科病院には、診療に関し、院長、副院長、分院長のほか、医師の所属する医局のもとに、看護課、検査室、秘書課が設置され、また右診療以外の業務に関しては、理事長、副理事長、事務局長のもとに、医事課、庶務課、経理課、厨房課、管理課等がおかれ、看護婦、准看護婦、検査技師、事務職員等が配置されていたが、昭和五五年八月現在、医師五名、看護婦、准看護婦約二五名、臨床検査技師一名、事務職員約一〇名、給食関係者等約一五名が勤務していた。

 

 

  二 富士見産婦人科病院の運営

 

 被告人の当公判廷における供述、被告人の検察官に対する昭和五五年九月二一日付供述調書、証人B、同北野千賀子の各公判調書中の供述部分、同C子に対する当裁判所の尋問調書、同D子に対する受命裁判官の尋問調書、E、北野千賀子の検察官に対する各供述調書、医局会議々事録写三冊等によれば、被告人は、前記のとおり、富士見産婦人科病院の開設以来、医療法人芙蓉会の理事長として同法人の運営に関する業務を統轄し、主として富士見産婦人科病院の経営に関する資金繰り、人事に関する任免、賞罰、給与等について権限を有していたものであり、他方富士見産婦人科病院における診療義務に関しては、昭和四六年以降、北野医師が院長として医療上の統轄者となり、同病院における医師、看護婦その他診療に従事する者を指導監督する立場にあったものである。そして、富士見産婦人科病院においては、右院長のもとに原則として週一回開催される医師たる医局員を構成員とする医局会議が設置され、医局長を議長とし、診療に関する一切の事項が協議され決定されることとなっていたが、後述するとおり、医局会議には医局員のほか、医療法人芙蓉会の理事長、専務理事、事務局長らが出席し、要望 や意見を述べることができた。

 

  三 富士見産婦人科病院における外来患者に対する診療システム

 

 関係証拠によれば、新規外来患者は、富士見産婦人科病院において、おおむね次のような順序で診療を受けていたことが認められる。すなわち、

 

/卦外来患者は、先ず事務局の窓口へ行き、事務局員に診療を申し込み、保険証を差し出す。事務局員は患者からの説明あるいは保険証によって、外来患者受付簿に患者の氏名その他所定事項を記入するとともに、患者に初診カードを渡して必要事項を記入させたうえ、患者のカルテを作成する。カルテは保険カルテと自費カルテの二種類があり、保険証を有する患者については自費カルテのほか保険カルテを作成したうえ(保険カルテは保険適用の処置をした場合に記入されるものであり、自費カルテは保険適用外の処置をした場合に記入されるものである)、患者を外来待合室へ同行する。

 

患者は、外来医務室において、予め担当医師の指示を受けた看護婦(准看護婦を含む。以下同じ)より、検尿、血圧測定、身長・体重等の測定を受けるが、その結果は看護婦によって自費カルテに記入され、担当

医師のもとに届けられる。担当医師は右カルテに目をとおしたうえ、患者と面接し、問診・視診・触診などの必要な診察をし、その所見を自費カルテに記入する。

 

ところで、担当医師が診察の結果、当該患者についてはME検査あるいはコンサルが必要と判断した場合には、ME指示表(当初は「連絡票」であったが、昭和五三年末ころより「ME指示表」となる。

以下、いずれをも、「ME指示表」と表示する)あるいは医事相談指示用紙(以下、「医事相談指示票」という)の指示欄に要項を記入して、ME指示あるいはコンサル指示を出す(担当医師がME検査とコンサルの双方が必要と判断すれば、ME検査指示とコンサル指示が同時に出されるが、本件起訴にかかる患者については、後述するとおり、訴因番号38の患者を除き、すべて予め担当医師より被告人に対しME検査指示とコンサル指示が同時に出されている)。

看護婦は患者のカルテとともに、ME指示表あるいは医師相談指示票を事務局に届けるが、その間患者は外来待合室(喫茶室)に待機する。事務局員は、秘書課に連絡をとって、担当秘書を呼び出し、右看護婦から受けとったカルテとME指示表あるいは医事相談指示票を渡し、担当秘書をして患者をME室へ同行させる(なお、分院においてME検査指示あるいはコンサル指示をうけた患者は、車で本院へ運ばれ、ME室へ同行される)。

そこで、ME室の担当者は、右担当秘書が持参したME指示表あるいは医事相談指示票によりME検査又はコンサルを実施することになるが、ME検査結果についてはME写真コピーを作成して保険カルテの末尾に貼付し、コンサルについては医事相談指示票の相談課説明内容欄に必要事項を記入する。

そして、右ME指示表、医事相談指示票、カルテは、担当秘書により事務局を経て後述するME主任管理医師、担当医師の許へ回付され、その後ME指示表、医事相談指示票については秘書課において、カルテについては医事課においてそれぞれ保管される。他方、ME検査あるいはコンサルを終えた患者は、看護婦に誘導されて事務局へ行き、カルテにより計算された当日の現金負担分を支払い帰宅する。

 

ぐ綮佞ME検査もコンサルも必要がないと判断した患者については、その日の診療を終了するが、引き続き後日に診察又は治療が必要な患者については、担当医師から次回来院日を指定されたうえ、前同様看護婦に誘導されて事務局へ行き、その日の精算をして帰宅する。

 

以上が富士見産婦人科病院における新規外来患者についての通常の診療の概要である。

 

 ところで、本件は、被告人が医師の資格はもとより何ら医療法上の資格がないのに、右に述べたME検査及びコンサルの担当者としてこれに関与し、その際の被告人の行為が医師法一七条に違反するとして起訴されたものである。そこで以下富士見産婦人科病院におけるME検査及びコンサルの実態について検討を加えることとする。

 

第三 ME検査について

 

  一 ME装置

 

 被告人の検察官に対する昭和五五年九月二一日付、同年一〇月一五日付、同月二四日付各供述調書、押収してある取扱説明書六冊、カタログ三部、取扱説明書及び仕様書二冊、超音波診断技術入門テキスト一冊、図解産婦人科超音波検査法一冊、モダンメディシン一冊等によれば、ME装置は、レーダーに使用されている超音波の原理を応用したものであるが、超音波を患者の身体にあてることにより体内の臓器等の断層面をブラウン管に投影させる機器であって、医療上この断層映像によって患者の体内の状態を観察するために考案されたものである。

ME装置が診断機器であるか検査機器であるかはさておき、体内の臓器等の状態を種々の角度から視覚により観察することができることから、医師の内診所見や従来の検査によっては発見できなかった患者の体内の病状、病変の有無、その程度 等を明らかにするのに役立っている。

そして、産婦人科の分野においても、超音波がX線とは違って母体や胎児に害がないことから、婦人生殖器の位置及び形状、子宮筋腫、卵巣のう腫、胞状奇胎等の病状、病変の有無・程度、胎児の状態、妊娠期間、着床、正常妊娠と異常妊娠等を判定・診断するのに利用されているものである。

 

  二 富士見産婦人科病院におけるME検査の採用と被告人がME検査を実施するようになった経緯等

 

 関係証拠によれば、次のとおり認められる。

 

すなわち、被告人は、昭和四六年六月ころ、埼玉県所沢市内の医療器具販売会社のセールスマンからME装置の購入を勧められ、北野院長と相談のうえ、当時としては開発されたばかりでまだもの珍しかったME装置(SSD―三〇B)を購入したが、当初はB医師が中心となり、これにF医師、G臨床検査技師が加わってME検査を実施していたが、同年一〇月ころF医師が退職し、その後G臨床検査技師も本来の検査の仕事が忙しくなったため、ME検査から離れ、以後、B医師一人がME検査を担当するようになった。

その後本院の二階南側の部屋がME検査室として確保され、同四八年六月ころには新式のME装置(SSD―六〇B)が購入されたが、同年八月ころ外来患者の診察をしながらME検査を担当していたB医師より、診療業務が多忙であるからME検査の担当を外してほしいとの申し出があり、他方、被告人自身において、以前に電気関係の仕事をしていたことからME検査に興味を持っていたうえ、B医師をME検査から外して外来患者の診療に専念させた方が富士見産婦人科病院における患者の流れもよくなると判断し、北野院長と相談のうえ、医局会議において、自らME検査を担当することを各医師に伝え、ME検査を実施するようになったものである(北野院長作成の昭和四八年八月二五日以降の医師勤務表のME検査担当者欄には、月曜から金曜までの週五日間「北野(理)」と記入され、被告人が毎週五日間ME検査を担当するようになった)。

 

被告人は、当初B医師から、実際に患者に対しME検査を実施しながら、ME装置の操作の仕方や断層映像を見て患者の病状・病名等を判断する方法について指導を受けていたが、同年一〇月ころ以降、被告人が単独でME検査を実施するようになり、その後、被告人において超音波やME検査に関する参考文献を読んで研究したり、経験を積んだため、同五〇年一〇月ころには断層映像やME写真をみてほぼどのような患者の病状・病名等についても判断するようになり、以後同五五年九月本件により逮捕されるまでME検査を継続して実施していたものである。

なお、富士見産婦人科病院においては、右被告人のME検査に関し、ME主任管理医師の制度が設けられ、その開始時期や実態については後述するとおりであるが、当初はB医師が、同五四年六月一八日以降はH医師がそれぞれME主任管理 医師に任命されている。

 

  三 被告人が実施していた本件ME検査の概要

 

 関係証拠によれば、被告人が本件において行っていたME検査の概要は次のとおりである。

すなわち、被告人は前記のとおり担当医師から回付されてきたME指示表の指示により、ME検査を実施していたものであるが、カルテ(診療録)、ME指示表、医事相談指示票が廻されてくると、先ずME指示表及び医事相談指示票にひととおり目をとおし、担当医師の意向を把握したうえ(被告人は、ME検査や後述のコンサルの実施にあたり、カルテは一切見なかったと述べている)、患者をME室に入れてべッドに仰臥させ、補助者として同席していた担当秘書をして着衣を脱がせて患者の下腹部を露出させ、下腹部にアクアソニックを塗布させた後、被告人においてME装置のスウィッチを入れて画像や超音波の届く深度の目盛りなどを調節して準備したうえ、超音波を発する探触子を患者の下腹部に密着させてこれを上下、左右に移動走査させ、下腹部内の臓器等の断層面をブラウン管に投影させながら(探触子を走査させると、ブラウン管に映し出される画像もこれに応じて絶えず変化する)、通常一五分から三〇分位の時間をかけてその断層映像を観察したが、その間、鮮明な病状、胎児等が映し出されると、その影像を固定させたうえ、担当秘書に指示をしてポラロイドカメラでその映像を写させた(なお、昭和五四年三月購入したオクトソンの場合は、探触子を手に持って走査させる必要はなく、患者をベッドの上に伏臥させ患部に照準を合わせるだけで断層影像をブラウン管に映し出すことができた)。

そして、担当秘書が右のようにして撮影した影像写真をB四判の大きさのコピー用紙に貼付し、これをコピーしたうえ、患者の氏名、年齢、作成日付等を記入して被告人のところへ持参すると、被告人は右ME写真のコピー用紙の余白に、ME装置を操作して自ら観察し、認識した患者の具体的病状・病名等を、必要な場合には臓器の図解をして記入し(以下、被告人がME写真のコピーの余白に記入した所見を「ME所見」という)、その後これを担当秘書において、再びコピーにとり、その下欄に「ME参考要検討乞」とのゴム印を押したうえこれを保険カルテの末尾に貼付し、前記カルテ、ME指示表、医事相談指示票等とともに、事務局を経て、ME主任管理医師、担当医師に回付していたものである。

 

  四 弁護人の主張に対する当裁判所の判断

 

 ところで、弁護人は、

 

(一)右ME装置は、検査機器であって、患者を診断するための機器ではない。

被告人が右ME装置を使用して実施したME検査は、担当医師から指示を受けてその診断の資料を提供するために行った検査であり、被告人において患者を診察・診断した事実はない。

被告人がME写真のコピーの余白に記載したME所見も、医師の診断の参考に供する目的で撮影した患者の臓器の断層影像写真を、担当医師のために説明したものであり、被告人がME装置により患者を診察・診断した内容を記載したものではない。

 

(二)被告人が実施していた本件ME検査は、人体に危害を及ぼすおそれはなく、しかも担当医師が患者の検査部位を具体的に特定してその実施を指示し、ME主任管理医師の指導監督のもとに行われたものであるから、医師法一七条に違反しないと主張する。

 

 そこで、先ず所論(一)について検討すると、被告人が担当医師の指示を受けてME検査を実施し、その結果を報告するため、患者の臓器の断層映像の数コマを写真にとり、これをコピーにしたものを保険カルテの末尾に貼付し医師に回付していたこと、被告人は担当医師の参考のためME写真のコピーの余白にME所見を記載していたことは所論のとおりである。

 

 しかしながら、被告人が実施していた本件を含むME検査の実態を関係証拠に照らし仔細に検討してみると、被告人は所論指摘のように、医師が診断するための資料を提供するためにのみME検査をしていたのではなく、併せてME装置を使用して自ら独自に患者の具体的病状・病名そのものを判定・診断していたものと認められる。

 

すなわち、被告人はME装置を操作して患者の体内の臓器の断層映像を映し出し、そのうち病状・病変、胎児の状態等がよく映しだされた映像部分を静止させてこれを写真にとるとともに、ブラウン管に映し出されていく映像を自ら直接観察しながら、独自に患者の具体的病状・病名そのものを読み取りこれを判定・診断していたことは、ME所見、医事相談指示票の相談課説明内容欄の記載内容、各患者の証言、被告人の操作段階における供述等に照らし明らかである。

 

そして、被告人が右のようにME装置を使用して自ら患者の具体的病状・病名そのものを判定しこれを診断するようになったのは、被告人が捜査段階で供述しているように、被告人自身においてME装置の操作に相当の興味をもって研究を重ね、経験も積んで患者の病状・病名等を判断できるようになったことのほか、富士見産婦人科病院の医師において断層映像写真の解読能力が殆どなかったために、前任者の医師であるBが実施していた方法をそのまま引き継いだことによるものである。

 

また、ME所見や医事相談指示票の指示欄及び相談課説明内容欄各記載の内容、C子医師の供述内容等をみると、担当医師においても被告人に対しME装置による患者の病状・病名等の判断を期待し、また被告人がこれを患者に告げて入院をすすめることを当然のこととして受け止めていたことが認められる。

 

更には、後述するとおり、被告人が医局会議において再三医師に対しコンサルの指示(医事相談指示票の指示)内容を明確に記載するよう要求していることからも明らかなように、担当医師からのコンサル指示の内容が杜撰かつ曖昧であったことから、被告人がコンサルを実施し患者に入院を勧めるうえでME装置を使用して自ら患者の病状・病名等を読み取り、これを判断せざるを得なかったことも否定できない。

 

加えて、ME写真のコピーは、前叙のとおり、もともとME検査の結果を担当医師に報告するために作成されたものはであるが、その内容を見ると、患者の臓器の断層映像のうち、担当医師の診断資料として必要と思われる数コマを写真にし、これに映像の客観的な状態についての説明を付したというだけのものではなく、医師が患者を診察・診断した結果をカルテに記載するのと同様に、被告人がME装置を操作して自ら読み取った患者の具体的病状・病名等を患部を図解し医学的用語を駆使しながら詳細な説明を加えたものであり(被告人は、捜査段階において、探触子を実際に走査しながら納得のいくまで直接映像を見なければ、患者の病名や病状等の判断はできず、ブラウン管に映し出された患者の臓器の病状・病変等の映像が自己の頭の中に残っている間にME所見を記載したと述べ、自らの患者の具体的病状・病名等の判断の過程を明確に供述している)、しかも被告人は、後述するコンサルにおいて、右ME所見を含むME検査の結果判明した病状・病名等を自ら患者に告知しながら精密検査又は手術のための入院を慫慂していた(以下、「入院外交」という)ものである。

 

以上のほか、被告人からME写真のコピーの回付を受けた医師が実際に参考にしたのは、ME写真そのものではなく(被告人は、捜査段階において、ME写真は医師に報告するためではなく、保険請求をする関係でME検査を実施したという証拠を残すためにとっていたにすぎないとも述べている)、ME所見として記載された患者の具体的病状・病名等であり、保険カルテに記載されたその日の患者の診断病名も、担当医師が内診所見により診察・診断したものではなく、右被告人がME所見として記載した病名をそのまま記入したものが相当数あり、しかもその中には医師自身がそのまま移記したものさえあること、ME検査は被告人が実施する以前はG臨床検査技師を除けばすべて医師が行っていた等の事実をも併せ考えると、被告人は、本件ME検査において、医師の指導や専門医学書により得た自己の医学的知識と経験を基に、独自に患者の具体的病状・病名等を読み取り、 これを判定・診断していたことは明らかである。

 

 以上のとおりであって、被告人の本件を含むME検査は、担当医師の指示により実施され、その結果についても担当医師に回付されていて、一応医師の診断資料を提供するための検査という形式がとられてはいるが、その実態をみると、被告人は単に医師の診療の補助としてME検査を実施していたというだけではなく、併せてME装置を使用して患者の具体的病状・病名等を独自に判定・診断し、その結果をME写真のコピーの余白に所見として記載するとともに、後述するコンサルにおいてこれを自ら直接患者に告げながら入院外交を行っていたものであって、右被告人の一連の行為が本来医師の行うべき診察・診断にあたり、医師法一七条により医師の資格のない者には禁止されたいわゆる医行為に該当することは明らかである(なお、患者の具体的病状・病変の有無、その程度等を読み取り、自らこれを判定診断する目的で、ME装置により映し出された患者の臓器の状態等を観察することも、診察行為の一種として医行為にあたるものと解されるが、本件においては、被告人の医師法一七条違反行為を、判示のとおり、検察官が釈明する公訴事実の範囲内で認定した)。

 

 次に所論(二)について検討する。

 

   (1) 担当医師の被告人のME検査に対する指示について

 

 ME検査自体がX線のように人体に害を及ぼすものではないこと、被告人が担当医師からのME指示表による指示(医事相談指示票の指示欄に記載されたME指示を含む。以下同じ)により、本件各ME検査を実施していたことは所論のとおりである。

なお、弁護人は、被告人は担当医師から右ME指示表による指示のほか、口頭、電話その他の方法による指示又は連絡を受けながらME検査を実施していたと主張し、被告人、北野、B各医師、I子らも公判廷において右主張に沿う供述をしているが、被告人自身捜査段階において、本件について担当医師からのME検査指示は右ME指示表による指示のみであった旨一貫して供述しているものであり、北野、B各医師、I子らの公判供述も曖昧なもので、これを裏付けるに十分な証拠がないのみならず、北野、B各医師と同様の立場にあったC子、H、D子(以下、「D子医師」という)各医師はいずれも被告人に対する本件ME検査の指示はME指示表によってのみ行われていた旨明確に供述しており、前叙被告人がME検査を担当するに至った経緯等に照らしても、右被告人らの公判供述は措信できない。

 

 ところで、弁護人は、ME検査は人体に危険を及ぼすおそれがないので、医師の指示があれば、被告人のような医療法上の無資格者がこれに従事しても、医師法一七条に違反しないと主張するが、被告人は、前認定のとおり、担当医師の指示を受けて実施していたME検査において、ME装置を操作して患者の具体的病状・病名等を独自に判定・診断し、これを自ら後述するコンサルで患者に告知しながら入院外交を行っていたものであって、医師の行う診断資料を収集するための検査だけを行っていたとか、あるいは医師の行う診察・診断において単にその手足として関与していたにすぎないというものではない。

そして、右のようにME装置の操作により患者の具体的病状・病名等を判定・診断するためには、ME装置の操作技術に加え、人体の臓器の形状等に関する解剖学的知識と経験が必要であり、また各臓器の正常時の状態等を予め知悉したうえ多種多様の病変に対応してこれを的確に判定する生理学的、病理学的知識と経験が必要であって、医師としての資格を有する者が自ら行うのでなければ保健衛生上危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれが存することも明らかである。

 

 以上のとおりで、被告人はME装置を使用し自ら主体となって独自に患者の病状・病名等を判定・診断していたものであり、かかる行為は、使用した機器自体が患者の身体、生命に何ら危害を及ぼすおそれがなく、しかも医師による指示によって行われたとしても、無資格診療となり、医師法一七条に違反することはいうまでもない。

 

 

   (2) 主任管理医師の被告人のME検査に対する指導・監督について

 

 B、H各医師がそれぞれ富士見産婦人科病院においてME主任管理医師に就任していたことは所論のとおりである。

 

 そこで、右両医師のME主任管理医師として被告人のME検査に対し行っていた指導・監督の実態について検討すると、弁護人は、右の点に関し、B医師は昭和四八年ころME主任管理医師となり、また同五三年一一月からはME指示表の最終管理者となり、被告人の行うME検査を指導・監督していたものであり、また同五四年六月一八日以降は、H医師がME主任管理医師としてME室に常駐し、被告人を指揮してME検査を実施していた旨主張し、被告人、北野医師、I子らも公判定において右主張に沿う供述をしている。

 

しかしながら、関係証拠によれば、B医師がME主任管理医師に就任したのは昭和五三年一一月末ころであり、それまでは昭和四六年六月ころから同四八年八月ころまで専門のME担当医師として自らME検査を実施していたが、右ME担当を免除されて一、二ヵ月間、被告人に対しME検査の方法などについて指導したが、以後は本来の仕事である外来患者の診療業務に追われ、所論主張のようなME主任管理医師の立場から、被告人の行うME検査の指導・監督はもとより、その立ち会いさえしたことがないこと(B医師自身、右昭和四八年から同五五年までの約七年間に、自分の担当した患者で重大な病気が疑われた患者について、映像を自ら確認する必要があったためME室に行ったことはあるが、その回数はせいぜい一五回以内にすぎないと述べている)、また、ME主任管理医師の仕事の内容として、ME検査を受ける患者の診断は含まれていなかったので、被告人が実施するME検査を受ける患者に対するME検査の要否やME検査の内容についての実質的な検討は何ら行っておらず、そもそもこれができない状況にあったものと認められる。

 

またH医師も、「昭和五四年六月一八日からME主任管理医師となったが、北野院長から、ME検査は医師の立ち会いがないと具合が悪い、立ち会うだけでよいからME検査室に入って下さいと言われ、それまでME検査の経験がほとんどなく、その能力もなかったが、被告人に対し特に指導・監督する必要はなく、単にME検査室で被告人がME検査を実施するのをみているだけでよいということで、ME主任管理医師を引き受け、以後本件により被告人が逮捕されるまでME主任管理医師に就任していたものの、その間実際にも、被告人に対しME検査の指導をしたことは全くなく、また、被告人のME検査を受ける患者をME主任管理医師の立場から診察・診断したこともなく、ただME指示表に目を通したことを確認する意味のサインをしていたにすぎない。」旨明確に述べており、右H医師の供述内容は、被告人の捜査段階における供述、C子、D子各医師の供述とも符合するものであって、前記被告人らの公判供述はとうてい措信できないのみならず、富士見産婦人科病院におけるME主任管理医師の被告人のME検査に対する指導・監督なるものの実態は、実体のない名目的なものにすぎなかったものと認められる。

 

そうすると、被告人の本件ME検査がME主任管理医師の指導・監督のもとに実施されていたとの前記弁護人の主張は、その前提において失当であるというべきである。

 所論はいずれも理由がない。

 

 

第四 医事相談(コンサル)について

 

  一 富士見産婦人科病院におけるコンサル制度と被告人がこれに関与するようになった経緯等

 

 関係証拠によれば、富士見産婦人科病院において実施されていたコンサルは、いわゆる患者の治療のための助言や指導ではなく、専ら入院や手術をすることに難色を示す患者を説得しこれを承諾させることを目的として始められたものである。

 

すなわち、富士見産婦人科病院においては、当初担当医師が患者について精密検査ないし手術のために入院が必要であると診断すると、担当医師において直接患者に説明し承諾をとっていたが、医師が診察に忙殺され患者に十分説明するだけの時間がとれないことから患者を説得し切れず、そのため患者との間に問題が生じるケースがあった。

 

しかるところ、昭和四六年一〇月ころ、B、F両医師が担当した手術がうまくいかず、再手術が必要となったが、医師の説得では患者の承諾が得られず、緊急事態となったが、これを知った被告人が説得をして患者の了承をとり、ことなきを得たという事件があり、このことが契機となり、患者に対し入院や手術をすすめるについても、被告人が担当医師に代わって行えば、時間も十分とれることから、患者の経済的な問題、家庭問題などをも含めて相談に乗ることができ、そのため、患者との間も円滑に行くのではないかという考えのもとに、医師の要望もあって、同年末ころから相談課を新たに設置し、被告人がこれを担当することになったものである。

 

なお、前記ME主任管理医師に就任 したH医師らも、コンサルを担当していたものである。

 

  二 被告人が実施していた本件コンサルの概要

 

 被告人が本件において実施していたコンサルの概要は、関係証拠により次のとおり認めることができる。

すなわち、被告人は、前記のとおり、担当医師より、看護婦、事務局員、担当秘書等の手を経て回付されてきた前記医事相談指示票の指示欄記載の指示を受けて、ME室又は理事長室において患者と面接し、コンサルを実施していたが、本件各患者についての担当医師から被告人に対するコンサル指示の内容は、後記のとおりである。

 

また、右コンサル指示はいずれも前記ME指示と同時になされているうえ(たゞし、訴因番号38の患者を除く。以下同じ)、本件コンサルの殆どが、ME検査終了直後の前記ME写真コピーを担当医師に回付する前に、ME室で実施されている。

 

そして、被告人は、コンサルが終了すると、その結果等を医事相談指示票の相談課説明内容欄に記入し(なお、同票の最下欄の医事課指示欄は、入院の手続きなどで被告人らコンサル担当者から医事課に指示することがある場合に記入されていたものである)、これをおおむねその日のうちに、前記カルテ、ME指示表とともに、事務局、ME主任管理医師を経て、担当医師に回付していたものであるが、本件各患者に対する右相談課 説明内容欄記載の内容は後記のとおりである。

 

 

  三 弁護人の主張に対する当裁判所の判断

 

   1 被告人の本件コンサルと医師の指示等について

 

 ところで、弁護人は、被告人は本件各患者に対するコンサルにおいて、いずれも担当医師の指示に基づき、その指示の範囲内で、担当医師が診断した患者の病状・病名等を医師の補助者として告げていたものであるから、医師法一七条に違反しないと主張し、被告人も公判廷において右主張に沿う供述をしている。

 

 そこで検討すると、被告人が担当医師から各患者に対するコンサル指示を受けてコンサルを実施し、その状況等を医事相談指示票の相談課説明内容欄に記載し、これを担当医師に報告していたこと、ME検査とコンサルはもともと別のものであり、被告人がME検査の結果を記入したME所見は担当医師に対しME検査結果を説明し報告するために行われていたものであって、被告人がコンサルにおいて患者に告知する内容を記載したものでも、告知した内容を備忘のために記載したものでもないことは所論のとおりである。

 

 しかしながら、関係証拠によれば、被告人は、本件各コンサルにおいて、担当医師からのコンサル指示の内容にとらわれずに、前認定のとおり、ME装置を操作して自ら独自に診察・診断した患者の具体的病状・病名等をそのまま患者に告げて入院外交を行っていたものと認められる。

 

すなわち、医事相談指示票の相談課説明内容欄において被告人が患者に告げたと明確に記載している患者の病状・病名等の中には、後述するとおり、被告人のME所見には記載があるが、担当医師作成の医事相談指示票及びME指示表記載の各指示はもとより、内診所見にもないものが相当数認められ、右の事実は被告人が担当医師の診断やコンサル指示にとらわれずに、ME検査によって自ら独自に判定し診断した患者の病状・病名等を患者に告げていたことを示す明らかな事例である。

 

弁護人は、右の点に関し、ME検査の結果、担当医師の指示にない患者の病状・病名等が判明したときには、被告人はそのことを担当医師に連絡し、担当医師から右病状・病名等についての追加指示あるいは再指示を受けてコンサルを実施していたと主張するが、後に個別的に詳述するとおり、本件各患者について所論主張のような追加指示あるいは再指示がなされていたものとは認め難い。

 

またC子医師は、富士見産婦人科病院では、被告人がME検査を実施しコンサルを行うにあたり、ME検査により新たに判明した患者の病状・病名等を担当医師に連絡したり相談することなく、被告人の判断によりそのまま直接患者に告げて入院外交をすすめることは、当然のこととして容認されていたと明確に供述し、H、D子各医師もこれに符合する供述をしている。

 

更に、被告人自身が、捜査段階において、一人前にME検査ができるようになった前記昭和五〇年一〇月ころよりかなり前の医局会議の席上などで、医師達から、ME検査で医事相談指示票の指示欄に書いていない病名・病状等がでたら、コンサルで患者に説明するように言われていたこと、本件すべての患者につき、担当医師のコンサル指示にとらわれず、従ってまた医師に連絡したり相談することもなく、ME検査により独自に診察・診断した病状・病名や入院・手術の必要があること等をそのまま患者に告げて入院外交を実施していたことを明確にかつ一貫して供述しているものであって、その供述内容は後述 するとおり十分信用できるものと認められる。

 

以上のほか、本件各患者についてはいずれもME検査指示と同時にコンサル指示がなされ、おおむねME検査直後にその場でコンサルが実施されていること、富士見産婦人科病院において実施されていたコンサルは、被告人を除けばいずれも医師が担当していたものであるが、被告人が実施していたコンサルの内容は医師が行っていたものと特に変わりがなかったこと、その他ME所見、医事相談指示票の相談課説明内容欄の記載内容、各患者の証言等をも併せ考えると、被告人は本件コンサルにおいて、各患者に対し、単に担当医師からの指示に基づき医師の診断した患者の病状・病名等をいわば医師の補助者あるいは手足としてそのまま告知していたにすぎないというものではなく、担当医師からの指示内容については一応念頭におきながらも、これにとらわれることなく、患者に対しては専ら被告人が実施したME検査により独自に診察・診断した具体的病状・病名や検査治療方法等を告げながらコンサルを実施していたことは明らかであって、右被告人の行為がME検査を通して自ら独自に診察・診断した内容の告知として医行為の一部を構成することはいうまでもない。

 

なお、医局会議議事録によれば、被告人が医局会議に出席し、その席上、「ME検査及びコンサルはあくまで主治医が主体ですから、きちんとした自分の指示を表示して下さい。」(昭和五四年二月二〇日)、「コンサル制度があるけれども、それだけに全面的に頼ることなく各自の受け持ちとの関係をもっとみつにとるように。」(昭和五五年二月一九日)等と発言した記載があり、被告人が担当医師からのME指示ないしコンサル指示の内容が不明確なことから、医師に対し指示内容を明らかにするよう注文をつけるとともに、ME検査及びコンサルの主体が担当医師であることについての認識を促していることが認められるが、担当医師の指示内容が右医局会議の前後を通じて特に改善されたり、被告人のME検査及びコンサルのやり方が変更された形跡は関係証拠上全く認められないのであって、右被告人の医局会議における発言は、前記認定を何ら左右するものではない。

所論はいずれにしても理由がない。

 

 また、弁護人は、被告人の本件コンサルは、ME主任管理医師の指導・監督のもとに実施されていたのであるから、医師法一七条に違反しないとも主張するようであるが、ME主任管理医師に任命されていたB、H各医師の指導・監督の実態は前叙のとおりであって、所論はその前提において失当であり、とうてい採用できない。

 

   2 被告人の本件コンサルにおける各患者に対する告知内容等について

 

 弁護人は、検察官主張にかかる別表記載の各患者に対する告知内容等について、個別的に争っているので、関係証拠について若干の説明をしたうえ、順次検討を加えることとする。

 

 (一) 告知内容等に関する証拠の若干の検討

 

  (1) はじめに

 

 被告人が、本件コンサルにおいて、各患者に対しいかなる資料に基づきいかなることを告知したかについては、当事者である被告人及び各患者の供述が重要な証拠となることはいうまでもないが、本件では後に個別的に検討するとおり、双方の供述ことに被告人の公判供述と患者の供述との間にかなり大きな相違がみられることから、右被告人及び患者の供述のみをもって、告知内容を確定することは困難であり、当時作成された医事相談指示票、ME指示表、ME所見、診療録等の客観的資料を基本に据え、被告人の捜査段階における各供述調書、B、北野、H、C子、D子各担当医師、その他本件関係者の各公判供述及び捜査段階における各供述調書をも併せ考慮しながら慎重に検討する必要があるが、弁護人が特に被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書、被告人及び各患者の公判供述について詳細な主張をしているので、右各証拠についての当裁判所の基本的な考えを示すこととする。

 

  (2) 被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書

 

   ア 任意性について

 

 弁護人は、被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書につき任意性に疑いがあるので証拠として採用されるべきではないと主張するが、その主なものの要旨は、

 

“鏐霓佑蓮∨楫鐚萃瓦戮砲△燭辰討い秦楮佐韻ら、上申書を書いて警察署長に出せばすぐに出られるといわれ、上申書の書き方について教えを乞うたところ、捜査官において真実に反する事実をどんどん書き入れ捜査官代筆による上申書を作成させられたが、その後面会に来た弁護人から事実でないことをあるようにいうことはいけない、本当のことをいうべきだと諭されて大変なことをしたと思い、捜査官に右上申書の返還を求めたところ、被告人の面前で破棄されたが、このように本件では被告人を取調べるにあたり、捜査官によって常識では考えられないようなことがなされている。

 

被告人の捜査段階における供述調書の中には、捜査官において被告人の供述を十分聞かないで、患者の述べているところをうのみにして勝手に書き上げたものが相当数ある。通常の一日の調書作成限度をはるかに超える枚数の調書が存在することはその証左である。

 

H鏐霓佑亘楫鐚萃瓦戮砲いて、捜査官から、被疑事実を否認し続けるならば、医師をも逮捕することになるし、被告人の釈放も遅れる。もし事実を認めるならばそのようなことはないなどと威迫、誘導されたために自供するに至ったものであって、これらの事実を合せると、被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書はその任意性に疑いがあるというのである。

 

 そこで先ず、本件捜査の経緯、被告人に対する取調べ状況等についてみると、関係証拠によれば次のとおり認められる。すなわち、所沢警察署では、埼玉県警保安課の応援をうけて、昭和五五年春ころから、富士見産婦人科病院の被告人ら関係者について、保健婦助産婦看護婦法(以下、「保助看法」という)違反、医師法違反等の容疑で内偵をはじめ、患者から事情聴取をするなどとしていたが、同年九月一〇日被告人を一二名の患者に対する保助看法違反、医師法違反の被疑事実で逮捕したうえ取調べたところ、被告人はME検査を実施したことは認めたが、ME検査結果による診断及び診断内容の患者に対する告知の事実を否認した。また翌一一日検察官の弁解録取において、当初診断という言葉の意味についてこだわりを示したが、検察官より逮捕状の被疑事実として記載されたようなことをしておれば、それは診断行為にあたると説明されて診断の事実を認め、同月一二日勾留されたうえ、司法警察員及び検察官の取調べが進められたが、一貫して逮捕状の被疑事実を含む本件事実を認める供述を し、同年一〇月一日には三〇名の患者についての医師法違反により起訴され、その後同年一一月六日三六名の患者について訴因追加がなされるとともに、同日被告人は保釈されるに至ったこと、以上の事実が認められる。

 

 ところで、被告人は、公判廷において、前記弁護人の主張にほぼ沿う供述をし、これに対し証人J、同K、同Lはこれらの事実を否定する趣旨の供述をしている。

そこで、右認定の捜査の経緯等を他の関係証拠と対比しながら、前記弁護人の各主張について順次検討を加えることとする。

 

 所論,砲弔い

 昭和五五年九月一五日ころ、被告人を取調べていた吉沢警部補の立会をしていた出店巡査部長が、被告人から上申書はどのようにして書けばよいか聞かれ、同巡査部長において上申書を記載し、被告人がこれに署名したこと、被告人は翌日弁護人と接見し、弁護人から右上申書の作成について忠告を受け上申書の返還を吉沢警部補に求めたこと、上申書が破棄されたことは関係証拠上明らかである。

 

 ところで、弁護人は、被告人で内容を記載して作成すべき上申書を捜査官において勝手に代書し、被告人に署名させて被告人の上申書とすることは常識では考えられないと主張するが、被告人が上申書の書き方がわからず、出店巡査部長に聞いたことは被告人も認めているところであり、また吉沢警部補の取調べに立会い、被告人が供述するのを聞いていた出店巡査部長が、被告人の求めに応じて右被告人の供述していた内容をそのまま上申書にまとめて記載してやり、被告人がこれに自署して自己の作成した上申書としたこと自体何ら違法、不当な点はない。

 

 また、被告人は、公判廷において、出店巡査部長と吉沢警部補から体を押さえられながら上申書を破棄されたと述べるが、右上申書は吉沢警部補が預り保管していたものであり、これが被告人のいる場所で破棄されていることを考えると、同警部補が被告人に返還するためわざわざ持ち出したものと認められるが、その上上申書が所論主張のように被告人の面前で右吉沢らの手によって、被告人の体を押さえながら破棄されたというのはいかにも不自然であり、吉沢警部補が供述するように、被告人に返還された後、被告人の手によって破棄されたものと認められる。

 

 更に、被告人は、吉沢警部補から上申書を書けばすぐに出られるといわれ、上申書を作成することにしたとも供述しているが、吉沢警部補は右事実を明確に否定しているのみならず、前記のとおり上申書が作成されたのは九月一五日ころのことであり、右は被疑事実からみても被告人に対する取調べが開始されたばかりの時期であること等を考えると、右被告人の供述は措信できない。
 所論はいずれも採用できない。

 

 所論△砲弔い

 

 被告人の吉沢警部補に対する各供述調書の頁数が、昭和五五年九月二二日付が六二頁、同月二三日付が五四頁、同月二四日付が二通で合計七一頁、同月二八日付が四七頁であり、出店巡査部長に対するもののうち、同年一〇月五日付が四三頁、仲田検察官に対するもののうち、同年九月二〇日付が四三頁、同月二一日付が六六頁、同月二六日付が四九頁、同月二七日付が六九頁、同月二八日付が五七頁、同月三〇日付が五三頁であること、吉沢警部補は公判廷において、通常調書の作成は一時間四、五頁であり、一日の取調べが延べ五、六時間であるから、一日に出来上る調書の枚数は三〇頁位であると述べていることは所論指摘のとおりである。

 

 しかしながら、吉沢警部補自身、他方において、被告人の供述を得て調書を作成したものであり、勝手に書きあげた事実はない。被告人に対する一日の調書の枚数は右に述べたより多く作成できたと述べているうえ、右各調書の内容を仔細に検討してみると、被告人は取調べに際し、捜査官から各患者についてのME指示表、ME写真コピー写、医事相談指示票、診療録等の資料を示され、これを検討し記憶を呼び戻しながら患者ごとに内容の異なる供述をしているものであり、そもそも所論主張のように捜査官において勝手に記載できるような事柄についての供述内容ではない。ことに右ME写真コピーの余白に被告人自身が記載しているME所見は、かなり癖のある乱雑な字で書かれていて、本人以外の者が正確に判読することは極めて困難であって、被告人の説明がなければ調書を作成して行くことが不可能であることは明らかである。所論はとうてい採用できない。

 

 所論について

 吉沢警部補及び仲田検察官は、いずれも公判廷において、被告人の取調べにあたり、所論主張のような事実はないと明確に否定しているばかりでなく、被告人は前認定のとおり、逮捕後間もなく本件被疑事実を認め、その後一貫してこれを認める供述をしているものであって、特に捜査官において、被疑事実を認めなければ医師を逮捕したり、被告人の釈放が遅れることになるなどと告げて取調べを行う必要があったとは認められない。また、被告人は捜査段階において、仲田検察官に対し、「富士見産婦人科病院の医師達も、被告人が実施していた本件ME検査及びコンサルの実情を知りながらこれを容認していたものであり、被告人と同様に責任があり、そのため医師達が免許を取り消されたり、一定期間免許停止になったとしても仕方がないと思う。医師達がかわいそうであるということと医師達の責任とは別のことで、本当のことは本当のこととしてどこへ出ても今迄話してきたとおりのことは話すつもりである。」等と供述しているものであり、これらの事実を合せ考えると、被告人の公判供述は措信できない。所論は採用できない。

 

 その他弁護人が任意性に関し指摘する諸点を十分検討するも、被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書の任意性に欠けるところはない。

 

   イ 信用性について

 

 本件においては、捜査段階において、被告人を取調べるとともに、患者に対する取調べも行われていたことから、本件コンサルの際の告知内容についての被告人の取調べは特に慎重になされており、後述するように、患者が捜査官に供述した告知内容をそのまま質問し確認しながら被告人に供述を求めているものであるが、被告人はその際患者が述べている告知内容をそのまま認めているものではなく、自己の記憶、経験のほか関係証拠を検討したうえ納得できない点については司法警察員に対しても、検察官に対してもこれを明確に否認し、捜査官の意向や患者の供述内容に迎合して供述したような形跡は全く存しない。また被告人はすべての患者について、当時被告人や担当医師が作成した医事相談指示票、ME検査指示表、診療録、ME写真コピー(ME所見を含む)などの客観的資料を遂一検討しながら記憶を喚起し、また各患者についてのME写真コピーの映像に、当時被告人が診察・診断した患者の病状・病名等をME所見等により再確認しこれを赤ボールペンで記入しながら供述しているものであり、しかも被告人の供述態度も極めて慎重であって、明確に記憶がよみがえった事実と、当時の自己の実施していたコンサルの実情や関係証拠にてらしてほぼ事実とを明確に意識し、これを使い分けて供述し、その供述内容も具体的かつ詳細であり、C子、H、D子各担当医師らの関係者の供述ともほぼ符合するものである。以上のほか、被告人の捜査段階における供述内容は殆ど変わることなく終始一貫していること、前叙任意性の判断において述べた事情などをも併せると、被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書の信用性は、本件各患者に対する告知内容に関する部分を

含め、全体として極めて高いものと評価できる。

 

 なお、被告人は右司法警察員及び検察官に対する各供述調書において、本件を含むすべての患者につき、専らME検査により独自に判定し診断した病状・病名等を患者に告げて入院外交をした、担当医師が内診所見を記載したカルテについては、独語で書かれていて読めず、これを見ずにコンサルを実施した旨一貫して供述しているが、公判廷においては、担当医師からのコンサル指示に基づき、その指示内容にある患者の病状・病名等だけを告げてコンサルしたものであって、ME検査の結果については患者に告げていないと述べ、右捜査段階における供述を真向から否認するに至っているが、前叙のとおり、被告人がコンサルの状況等を自ら記載した医事相談指示票の相談課説明内容欄の患者の病状・病名等の中に、医師のME及びコンサルの各指示にも内診所見にもないが(担当医師自身も、公判廷において、右は内診では診断できなかった病状・病名等であると明確に述べている)、ME所見に明記されているものが相当数あり、右の事実は被告人がコンサルにおいてME検査の結果を患者に告げていたことを明らかに示すのみならず、右相談課説明内容欄の記載中にはME検査の結果をそのまま患者に告げたと明記しているものもあること、本件各患者についてはいずれも担当医師より被告人に対し、ME指示と同時にコンサル指示が出され、右コンサルの殆どがME検査終了直後でME写真コピーを担当医師に回付する前にその場で実施されていること等を総合すると、被告人が前記捜査段階で供述しているところは十分信用できるものであって、本件各患者に対するコンサルにおいて、ME所見を含むME検査結果を各患者に告げて入院外交を行っていたことは間違いのない事実として確定することができる。

 

  (3) 被告人の公判供述

 

 被告人の公判供述を仔細に検討してみると、公訴事実についての認否の段階における供述とその後の公判供述との間に後述するようにかなりの変遷がみられるのみならず、医事相談指示票の相談課説明内容欄の記載からME所見の患者の病状・病名を告げていることが明らかであるのにこれを告げていないと述べている等客観的資料に明らかに反する供述部分も認められる。

弁護人は、右の点につき、公訴事実の認否の段階では、被告人は保釈後間もなくのことで、時間的にも精神的にも余裕のない状況にあり、しかも検討する証拠も十分なかったが、その後の公判供述は、医事相談指示票、ME指示表、診療録のみならず、各患者、各担当医師の証言などを検討し記憶が正確によみがえったものであると主張するが、公訴事実に対する認否後の公判供述にも、後述するとおり、右相談課説明内容欄の記載内容、C子、H、D子、B各医師らの各供述内容とは、コンサルの追加指示ないし再指示等基本的事実に関する部分について、真向から相反するのみ ならず、全体としても不自然かつ不合理な点が存する。

すなわち、被告人は公訴事実についての認否の際には、本件いずれの患者についても、担当医師からの追加指示ないし再指示があったという供述はなかったものであるが、その後の公判供述では、相談課説明内容欄に被告人が患者に告げたと明記してある病状・病名等のうち、医事相談指示票の指示欄にも医師の内診所見にも記載がないがME所見に記載されているものについては担当医師に連絡をとり医師から追加指示あるいは再指示を受けたと供述し、他方ME所見に記載されていて医事相談指示票の指示欄や内診所見に記載されていない病状・病名でも、相談課説明内容欄に患者に告げたとの明確な記載のない場合には担当医師からの追加指示あるいは再指示はなかったと供述している結果となっているが、被告人が前者に該当する患者について右のように供述を変えるに至った理由ないし事情について明確に供述していないのみならず、C子、H、D子各医師はいずれも本件を含むすべての患者についてコンサルの追加指示あるいは再指示をしたことはないと明確に述べていること、他方B医師は、公判廷において被告人に対し追加指示あるいは再指示をし

たことがあると述べているが、相談課説明内容欄に患者に告げたと明記してあるか否かを問わず、自己の内診所見や医事相談指示票の指示欄にない病状・病名がME所見に記載されている場合には被告人に追加指示あるいは再指示をしたと供述していること(ただし、右B医師の公判供述もにわかに措信できないことは後述するとおりである)を考えると、検察官が指摘するように、相談課説明内容欄において被告人が患者に告げたと明記してある病状・病名について自己の行為を正当化するための弁解として右のとおり追加指示あるいは再指示を受けたと供述をするに至ったのではないかとの疑念を抱かせるものであり、被告人の妻である北野院長が、右追加指示あるいは再指示に関して、右B医師の供述とも異なる、被告人の前記公判供述に沿った供述をしていることをも併せ考えると、被告人の公判供述は、B医師、北野院長の公判供述と同様に、それぞれおかれた立場の利害から、公判廷に提出された証拠に合わせて適宜弁解をしているとの感を払拭できない。

 

以上のとおり、被告人の公判供述はにわかに措信できないものがあるといわざるを得ない。

 

  (4) 各患者の公判供述

 

 各患者にとって、被告人は加害者の立場にあるのみならず、本件事案にかんがみ、患者の供述の信用性については特に慎重な検討を要する。確かに本件が各患者において自己の健康上の問題という生活の中で最大関心事の一つにかかわる事柄であり、忘れがたい体験であったことは検察官も指摘するところであるが、反面、各患者が供述したのは本件コンサルから数年も経過した後のことであり、記憶が薄れていることは当然考慮されて然るべきであり、しかも本件患者の中には、起訴にかかるコンサルのほかに被告人から同様のコンサルをうけているのみならず、他の医師の診察や手術の際にも自己の病状・病名を告げられており、患者が本件とは別の機会に医師や被告人から告げられたことを本件コンサルで告げられたものと混同して述べていることも十分考えられるところであって、患者の公判供述を検討するについては、医事相談指示票、ME指示表、診療録等の資料の裏付けの有無を考慮し、被告人の捜査及び公判における供述とも対比させながら、その真偽を慎重に確定する必要がある。被告人は、捜査段階において、本件コンサルにおいて、患者の病状・病名を誇張して告げたり、医事相談指示票の指示にもME所見にもない病状・病名も告げて入院外交をしたと述べており、患者の供述の中に右被告人の供述に符合すると思われるものも看取されるが、刑事裁判の厳格性にかんがみ、本件コンサルにおける告知内容についての各患者の供述のうち、関係証拠による具体的な裏付けのないものについては、供述自体の信用性が特に高く合理的な疑いの余地がないと認められる場合は格別、被告人の本件コンサルにおける告知内容として認定することを差し控えることとした。

 

 (二) 各患者についての個別的検討

(筆者注:65人の被害者の個別供述を審理して、量が膨大になるので省略します。)

 

第五 違法性の認識について

 

 弁護人は、被告人は本件ME検査及びコンサルを担当医師の指示を受け、その指示の範囲内で実施していたので、これが法に違反するとの認識はなかった旨主張し、被告人も公判廷において右主張に沿う供述をしている。

 そこで検討すると、被告人が本件ME検査及びコンサルを担当医師の指示を受けて行っていたことは所論のとおりであるが、被告人は、前叙のとおり、本件ME検査及びコンサルにおいて、弁護人が主張するように単に医師の行う診療の補助あるいは手足としてこれに関与していたというのではなく、自ら独自に患者の病状・病名等を診察・診断したうえこれをそのまま患者に告げて入院外交を行っていたものであって、このような医師の資格を有する者にのみ許された診療行為については、たとえ所論主張のような医師の指示があり、医師においてこれを容認していたとしても、医師法一七条に違反する違法な行為であることは多言を要しないのみならず、前叙のとおり、富士見産婦人科病院におけるME主任管理医師は、被告人の実施していた本件ME検査及びコンサルについて何ら実質的な指導・監督をしておらず、専ら被告人の本件ME検査が無資格者によるものであるとの非難をかわすために任命されていたものであって、被告人自身においても右の点を知悉して いたことは関係証拠上明らかである。

 

 ところで、弁護人は、富士見産婦人科病院では、所轄の監督行政機関である所沢保健所にME検査やコンサルについて質問し、被告人がこれを担当してもよいか否か聞いたが特段の注意や指導を受けていない、また、所沢保健所長が富士見産婦人科病院を医療監視した際、被告人がME検査やコンサルを実施するのに立ち会ったことがあるが、同所長より違法であるとの指摘はもとより、何らの注意もなかったものであり、そのため被告人において本件ME検査やコンサルを実施するについて、違法であるとの認識はなく、違法性の認識を欠いたことについてやむをえない事情が存したというべきである旨主張し、被告人も公判廷において同旨の供述をしている。

 

当時の所沢保健所長であった小島哲雄は、被告人が無資格で診療に関与しているなどの情報を受け、昭和五四年及び同五五年の各二月に富士見産婦人科病院を訪れ、被告人がME装置を操作していることを知ったが、違法であるからやめるよう指導しなかったことは所論のとおりである。

 

しかしながら、関係証拠に照らしても、当時、所沢保健所において被告人のME検査を積極的に是認したような形跡は全く存しないのみならず、保健所長において、右医療監視の際に、被告人がME装置を使用して前叙のとおり患者の具体的病名・病状等を診察・診断し、これをコンサルで告知しながら、入院外交を行っている場に立会うなどして、その事実を知りながらこれを容認していたものとはとうてい認められない。

 

加えて、富士見産婦人科病院においては、右保健所長の医療監視後において、被告人が医師の指導・監督のもとにME検査を実施している体裁を作出するために、ME検査に関する経験が殆んどなく、実質的に指導・監督する能力のないことの明らかなH医師がME主任管理医師に任命されていること等を併せ考えると、被告人が本件ME検査及びコンサルの実施について違法性の認識を欠いていたとは認められないし、いわんや違法性の認識を欠くについて相当な理由があったものとはとうてい認められない。

所論はいずれにしても理由がない。

 

 なお、被告人は、公判廷において、本件ME検査及びコンサルを、医師からの推挙により、医師の補助者として、医療あるいは患者の健康回復に寄与したいとの気持から実施したものであって、法秩序に違反するとの意識は全くなかったと述べ、また被告人が北野院長の了解を得て本件ME検査及びコンサルを担当し、他の医師らもこれを容認していたことは前認定のとおりであるが、右の事実が被告人の本件無資格診療を何ら正当化するものでないことはいうまでもない。

 

 その他所論が被告人の本件医師法違反事件について違法性の認識あるいはその可能性がないとして主張するところを検討するも、いずれも理由がない。

 

 (法令の適用)

 被告人の判示所為は、医師法一七条 、三一条一項一号に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、その刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、情状により刑法二五条一項 を適用してこの裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項 本文によりこれを全部被告人の負担とする。

 

 (量刑の理由)

 本件は、当時埼玉県下で産婦人科専門病院として屈指の設備と規模を有していた医療法人芙蓉会富士見産婦人科病院において、同病院院長の夫であり、医療法人芙蓉会理事長の地位にあった被告人が、それまで医療上の資格も経験も全くないのに、担当医師から患者のME検査及びコンサルの依頼を受けこれを実施した際、ME装置を操作して自ら独自に患者を診察・診断し具体的病状・病名等を判定したうえ、これを患者に告げて無資格診療を行っていたという事犯である。

 

 患者を診察・診断しその具体的病状・病名等を判定することは、患者の生命、健康を預かる医師の職務の中心をなすものであって、医師自ら直接行うべき極めて高度な医学上の知識と経験を必要とする医療行為であり、医師としての資格がない者には絶対に許されない行為である。

しかるに、被告人は、本件において、医療上の資格がないのに、ME装置を操作して独自に患者の病状・病名等を診察・診断したうえ、入院を慫慂する目的でこれを患者に告知していたものである。

被告人が担当医師の依頼を受けてME検査及びコンサルを実施し、その際右のように患者を診察・診断しその結果を告知するようになった経緯等は前叙のとおりであって、無資格診療を正当化するような理由ないし事情は全く存しないのみならず、被告人が無資格診療を実施していた本件ME検査及びコンサルは、富士見産婦人科病院の診療の予定表にその担当者として被告人の名前が記載され、通常の診療システムの一環に組み込まれて実施されていたものであって、かかる被告人の行為は厳正に施されるべき医療業務を冒涜する許し難い犯行といわざるを得ない。

また富士見産婦人科病院を訪れた患者らが、白衣を着た被告人を医師と判断したか診療補助者と判断したかはさておき、被告人から告げられる自己の病状・病名等が医師の診断によるものと信じていたことは関係証拠上明らかであるが、健康に不安を抱いて来院した患者にとっては、告知された自己の病状・病名等をそのまま信じ、これを治療せんがために指示されるまま行動せざるを得ないのが普通であり、実際に本件患者の中には被告人から自己の病状を聞いて狼狽し、指示されるまま直ちに入院、あるいは家族を伴って再度富士見産婦人科病院を訪れて説明を求め、また別の病院で診察を受けるなど相当動揺していたことが認められる。

 

 また、被告人は、当初前任者の担当医師から検査方法などについて指導を受けながらME検査を実施していたものであるが、昭和四八年一〇月ころからは被告人がひとりでME検査を担当し、同五〇年一〇月ころからはME装置を操作して独自に患者の病状・病名等を診察・診断し、これを患者に告げて入院を勧めるようになったものであって、本件起訴にかかる無資格診療は右一連の犯行の一部にすぎない。

被告人は医療法人芙蓉会の理事長の地位にあり、しかも医療業務を統轄していた同病院院長の夫であったことから、病院における医師を含む全ての職員の人事権を有していたが、そのためC子医師、D子医師らが明確に供述しているように、被告人が富士見産婦人科病院における経営面のみならず、医療業務についても事実上強い影響力を有し、医師ら医療に従事する者において本件のような不正診療に対し、正面から異を唱えることもできず、右のとおり長期間にわたってこれを継続させる結果になったものと認められる。

 

 更に、本件を含む富士見産婦人科病院における診療に関する不正が、いわゆる富士見産婦人科病院事件として大々的に報道されたこともあって、医療に対する社会的疑惑にまで発展するに至ったが、患者はもとより、医療関係者、世間一般の医療に関する信頼を失墜せしめた被告人の責任も軽視し得ないものがある。

 

 加えて、被告人は捜査段階において本件事実を認め、改悛の情を示していたが、本件が起訴され公判が開始されるや否認に転じ、最終公判の段階においてもなお、ME検査について研究を重ねて専門家に劣らないまでの能力を備え、患者の診療に全力を注いできたものであり、処罰されるようなことは行っていない旨弁解するなど、無資格者である自己の行為が法に触れ、人の生命、健康にかかわる医療の倫理に悖理することの自覚と反省の態度は認められず、これらの事情をも併せ考えると、被告人を実刑に処し、厳しく反省を求めることも考えられないではない。

 

 しかしながら、反面、被告人は病院経営のみを考えて本件犯行を敢行したものとは認められず、また治療行為そのものには全く関与していないこと、被告人に対しME検査を依頼した担当医師らは被告人のME所見をそのまま鵜呑みにして患者の病状・病名等を判定していたのではなく、自らも診断し、治療の要否を含む具体的な治療については担当医師の判断によって行われていたこと、本件病院における診療業務が適正に行われるよう指導監督すべき立場にあった院長、副院長、その他の医師らにおいて、被告人がME検査により患者の病状・病名等を判定・診断し、これを患者に告げて入院を慫慂することを容認していた面があり、 被告人に対してのみ厳しく責任を追求することは相当でないこと、本件を含む一連の不正が報道され、既に富士見産婦人科病院は閉鎖されるなど、被告人自身かなりの制裁を受けたものと認められる等被告人にとって有利な事情も存するので、これらをも総合勘案し、被告人に対しては、主文のとおり量定したうえ、その刑の執行を猶予することとした。

 よって、主文のとおり判決する。

 (裁判長裁判官 三井喜彦 裁判官 羽渕清司 裁判官 山田陽三)

 

 

 〈以下省略〉


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