薬事法の違憲判決

JUGEMテーマ:法律
前回の記事では三権分立と、最高裁判例が変えられた例として婚外子の相続差別違憲判決を解説しました。

昭和35年の医業類似行為の最高裁判決で問題にされたのは医業類似行為の禁止規定(あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律第12条)が憲法22条一項に違反するかどうか、という点です。

日本国憲法第22条一項
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。


今回は法令が憲法22条一項に違反していると最高裁が判断した薬事法の判例を見ていきます。


状況に関してはwikipediaの記事を参照してください。

なお、あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律第12条の、医業類似行為の禁止規定は合憲限定解釈というものであり、違憲判決ではありません。


というより法律が憲法22条違反とされた判決はこの薬事法違反事件だけです。

この事件、違憲判決としては中学の公民の資料集で見たことがあります。
2番めの法令違憲判決なのですが、最初の法令違憲判決は尊属殺人の加重罰規定であり、事件の内容が義務教育にはふさわしくなかったのでしょう。

この尊属殺人加重罰規定も以前は最高裁が合憲判断を出していたのを、判例を変えて違憲判決を出したのでした。
最高裁判例は変えられないものではないのです。

では判決本文の4(二)(2)(ロ)(10頁目)より、引用・解説します。
改行・強調などは筆者による。


 " ところで、薬局の開設等について地域的制限が存在しない場合、薬局等が偏在し、これに伴い一部地域において業者間に過当競争が生じる可能性があることは、さきに述べたとおりであり、このような過当競争の結果として一部業者の経営が不安定となるおそれがあることも、容易に想定されるところである。"

過当競争による薬局の経営不安定の可能性は肯定しています。

"被上告人は、このような経営上の不安定は、ひいては当該薬局等における設備、器具等の欠陥、医薬品の貯蔵その他の管理上の不備をもたらし、良質な医薬品の供給をさまたげる危険を生じさせると論じている。確かに、観念上はそのような可能性を否定することができない。しかし、果たして実際上どの程度にこのような危険があるかは、必ずしも明らかにされてはいないのである。"

「可能性は否定できない」であって、経営不安による危険性を証明する証拠・資料が無いことが示されています。

"被上告人の指摘する医薬品の乱売に際して不良医薬品の販売の事実が発生するおそれがあつたとの点も、それがどの程度のものであつたか明らかでないが、そこで挙げられている大都市の一部地域における医薬品の乱売のごときは、主としていわゆる現金問屋又はスーパーマーケツトによる低価格販売を契機として生じたものと認められることや、一般に医薬品の乱売については、むしろその製造段階における一部の過剰生産とこれに伴う激烈な販売合戦、流通過程における営業政策上の行態等が有力な要因として競合していることが十分に想定されることを考えると、不良医薬品の販売の現象を直ちに一部薬局等の経営不安定、特にその結果としての医薬品の貯蔵その他の管理上の不備等に直結させることは、決して合理的な判断とはいえない。"

「乱売」による「不良医薬品の販売の事実が発生するおそれ」は明らかではないわけです。
そして「乱売」の原因は過剰生産など、他の原因もあり、不良医薬品の販売の原因を薬局の経営不安定に直結することは合理的な判断ではない、としています。

"殊に、常時行政上の監督と法規違反に対する制裁を背後に控えている一般の薬局等の経営者、特に薬剤師が経済上の理由のみからあえて法規違反の挙に出るようなことは、きわめて異例に属すると考えられる。"

(ロ)の前の(イ)においては医薬品に関する様々な規制があることを指摘しています。

“(イ) まず、現行法上国民の保健上有害な医薬品の供給を防止するために、 薬事法は、医薬品の製造、貯蔵、販売の全過程を通じてその品質の保障及び保全上の種々の厳重な規制を設けているし、薬剤師法もまた、調剤について厳しい遵守規定を定めている。そしてこれらの規制違反に対しては、罰則及び許可又は免許の取消等の制裁が設けられているほか、不良医薬品の廃棄命令、施設の構造設備の改繕命令、薬剤師の増員命令、管理者変更命令等の行政上の是正措置が定められ、更に行政機関の立入検査権による強制調査も認められ、このような行政上の検査機構として薬事監視員が設けられている。これらはいずれも、薬事関係各種業者の業務活動に対する規制として定められているものであり、刑罰及び行政上の制裁と行政的監督のもとでそれが励行、遵守されるかぎり、不良医薬品の供給の危険の防止という警察上の目的を十分に達成することができるはずである。"

(ロ)に戻ります。

"このようにみてくると、競争の激化―経営の不安定―法規違反という因果関係に立つ不良医薬品の供給の危険が、薬局等の段階において、相当程度の規模で発生する可能性があるとすることは、単なる観念上の想定にすぎず、確実な根拠に基づく合理的な判断とは認めがたいといわなければならない。"

「確実な根拠なし」と最高裁は判断したわけです。

もし、経営不安定による不良医薬品の供給の危険性を示す証拠・資料があればこの距離制限に関しては合憲判決が出されたのではないでしょうか?

もっともこの最高裁判決後に薬事法は改正され、この距離制限の規定は無くなりました。
仮に経営不安定による危険性を立証する資料が出てきてもこの規定の合憲性を争うことは不可能です。

話を医業類似行為の禁止規定に戻せば、禁止処罰を「人の健康に害を及ぼすおそれのある行為」に限定した結果、健康被害が生じていることは国民生活センターの報告書から明らかです。

そして医業類似行為の禁止処罰規定は改悪・削除されておりません。

前回の記事で取り上げた婚外子の相続差別では法律上の整合性の問題を法制審議会の改正案によりクリアした旨、書きました。
医業類似行為を行ったことだけで禁止処罰を可能にしても法的な整合性は問題になりません。

また前回の記事では司法権(裁判所)は立法権(国会)や行政権の裁量を尊重しなければならない旨、書きました。
すでに健康被害が生じている資料がある以上、昭和35年の判例を維持し続けるのは司法の独善・暴走と言えるでしょう。

また日本国憲法は9条や22条だけではなく、25条もあります。

第25条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。


無免許施術を放置する判例を変えなければ憲法第25条2項の「公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」に違反すると思うのですが。



工藤はりきゅうマッサージ治療院

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